雑居ビルが立ち並ぶ大通り。学校を終えた学生二人が、菓子パンを頬張りながら会話に
花を咲かせている。
「おっ、こんなところにも落ちてる」
「よせよせ、おまえ拾う気かよ」
「だってよ、これ全部集めたら願いが叶うんだぜ?」
「全部って……これが何個あるか知ってんのか、おまえ」
拾おうとした学生も、それを咎めた学生も、答えを知らない。
全てを集めると龍が現れ、どんな願いでも叶えてくれるというドラゴンボール。
直径十センチにも満たない球体に込められた得体の知れない伝説。ロマンをかき立てら
れずにはいられない。
だが、伝説とは希少価値がなくては成り立たないものだ。
「あそこの木にも引っかかってるぜ。おまえ、あれも取ってくるか?」
「……やーめた。バカらしくなった」
「だろ? んなもん、適当に放置しておけばいいんだよ。吸い殻より多いくらいなんだか
ら」
この伝説は街中にありふれていた。
街だけではない。人がいるいないに関わらず、世界中どこにでも転がっている。砂漠で
は水を見つけるよりドラゴンボールを見つける方がたやすい、という諺がある国すらある
ほどだ。
「この後どうする?」
「俺、今日バイトなんだよ。店長が人足りねぇから出ろとかいってきてよ」
「そっか、大変だな」
「まったくだ。早く辞めてぇよ、マジで。くそっ!」
ローファーに蹴り飛ばされたドラゴンボールが別のドラゴンボールに当たった。
気に留める者は誰もいない。
花を咲かせている。
「おっ、こんなところにも落ちてる」
「よせよせ、おまえ拾う気かよ」
「だってよ、これ全部集めたら願いが叶うんだぜ?」
「全部って……これが何個あるか知ってんのか、おまえ」
拾おうとした学生も、それを咎めた学生も、答えを知らない。
全てを集めると龍が現れ、どんな願いでも叶えてくれるというドラゴンボール。
直径十センチにも満たない球体に込められた得体の知れない伝説。ロマンをかき立てら
れずにはいられない。
だが、伝説とは希少価値がなくては成り立たないものだ。
「あそこの木にも引っかかってるぜ。おまえ、あれも取ってくるか?」
「……やーめた。バカらしくなった」
「だろ? んなもん、適当に放置しておけばいいんだよ。吸い殻より多いくらいなんだか
ら」
この伝説は街中にありふれていた。
街だけではない。人がいるいないに関わらず、世界中どこにでも転がっている。砂漠で
は水を見つけるよりドラゴンボールを見つける方がたやすい、という諺がある国すらある
ほどだ。
「この後どうする?」
「俺、今日バイトなんだよ。店長が人足りねぇから出ろとかいってきてよ」
「そっか、大変だな」
「まったくだ。早く辞めてぇよ、マジで。くそっ!」
ローファーに蹴り飛ばされたドラゴンボールが別のドラゴンボールに当たった。
気に留める者は誰もいない。
国際会議にて、とある事項が採決された。
「──よって、これより全世界は協力し、ドラゴンボール収集に動くことを採択いたしま
す!」
「異議なしっ!」
「異議なし」
「異議なし!」
満場一致。大喝采のもと、会議は無事閉幕した。
雑草よりも価値の薄い伝説。ついに公的に「伝説を確かめよう」という動きが起こされ
た。いい加減ドラゴンボールをどうにかして処理して欲しいという世論による後押しがあ
ったことも事実である。
この日より、全国民が徹底的な伝説狩りを開始することとなる。
会議で決定したからというより、会議をきっかけにブームが起こったという方が正しい。
ドラゴンボールを拾い政府に届ける。薄謝がもらえる。
「よう、今日いくつ拾った?」
「調子悪いな。五十個くらい。カラオケ代くらいにはなるな、行こうぜ」
「おいおい、いつも月曜はバイトだろ?」
「先週辞めた。本気でやればこっちのが稼げるしな」
これはいつかの学生の会話である。
政府に届けられたドラゴンボールは公海にある名もなき無人島へと運ばれる。
地上に存在する全国家がこのサイクルを遵守した。
「──よって、これより全世界は協力し、ドラゴンボール収集に動くことを採択いたしま
す!」
「異議なしっ!」
「異議なし」
「異議なし!」
満場一致。大喝采のもと、会議は無事閉幕した。
雑草よりも価値の薄い伝説。ついに公的に「伝説を確かめよう」という動きが起こされ
た。いい加減ドラゴンボールをどうにかして処理して欲しいという世論による後押しがあ
ったことも事実である。
この日より、全国民が徹底的な伝説狩りを開始することとなる。
会議で決定したからというより、会議をきっかけにブームが起こったという方が正しい。
ドラゴンボールを拾い政府に届ける。薄謝がもらえる。
「よう、今日いくつ拾った?」
「調子悪いな。五十個くらい。カラオケ代くらいにはなるな、行こうぜ」
「おいおい、いつも月曜はバイトだろ?」
「先週辞めた。本気でやればこっちのが稼げるしな」
これはいつかの学生の会話である。
政府に届けられたドラゴンボールは公海にある名もなき無人島へと運ばれる。
地上に存在する全国家がこのサイクルを遵守した。
あの学生たちがそれぞれ食品メーカーと区役所の課長になった頃、全人類を巻き込んだ
ドラゴンボール収集がついに終わりを遂げた。
無人島に神龍が出たのである。
「さあ、願いをいえ。どんな願いでも一つだけ叶えてやろう」
各国政府から島に集められる、ドラゴンボール管理を委任された担当者たち。彼らは知
っていた。最近国同士の争いがないことを。その理由がどこにあるのかを。
迷いはなかった。
「全国民から、ドラゴンボールに関する記憶を消してくれ。全て集めると願いを叶えられ
るという点以外を」
「たやすいことだ」
龍は無数の球に戻り、空に舞った。──またこの願いか、という思考と共に。
願いを叶えた管理人たちが呟く。
「あれ、我々は何をしていたんだ?」
「いや……全く覚えていない」
「よく分からないが、何か良いことをしたような気分だけ残ってる」
「私もだ」
余談だがこの惑星では、ここ数百年戦争が一度として起こっていないという。
ドラゴンボール収集がついに終わりを遂げた。
無人島に神龍が出たのである。
「さあ、願いをいえ。どんな願いでも一つだけ叶えてやろう」
各国政府から島に集められる、ドラゴンボール管理を委任された担当者たち。彼らは知
っていた。最近国同士の争いがないことを。その理由がどこにあるのかを。
迷いはなかった。
「全国民から、ドラゴンボールに関する記憶を消してくれ。全て集めると願いを叶えられ
るという点以外を」
「たやすいことだ」
龍は無数の球に戻り、空に舞った。──またこの願いか、という思考と共に。
願いを叶えた管理人たちが呟く。
「あれ、我々は何をしていたんだ?」
「いや……全く覚えていない」
「よく分からないが、何か良いことをしたような気分だけ残ってる」
「私もだ」
余談だがこの惑星では、ここ数百年戦争が一度として起こっていないという。
お わ り